うどんとクリーニング

(2015/9/07)

 うどんが食べたいなと思った。20歳になって高校時代よりは色んなものを食べる機会を得たが、未だに高校の修学旅行で食べた高松の讃岐うどんがひどく美味かったイメージが残っている。そしてそのうどんは恐ろしく美味いのに、これまた恐ろしく安かった。300円前後だった気がする。

 この恐ろしいほどの美味さとお財布に対する優しさから、昼飯を食いにきたサラリーマンで店内は溢れていた記憶がある。

 うどんの事を考えていたらいてもたってもいられなくなった。先日、高校の友人を仙台に向かい入れた時に香川県の良さについて語られたこともあったのかもしれない。思い立ったが吉日。手帳を開きながら、高校、浪人時代を苦楽を共にした友人に連絡をとり、西日本へ旅立つことにした。

 しかし、旅程を決めたは良いものの多くの障害に突き当たった。まず日程がかなり詰まっていた。旅行最終日の次の日に、仙台でライブをする予定があった。

 また旅程がシルバーウィークとピッタリと被っていて、すでに新幹線やバスは満席のものがほとんど。移動手段の確保は難航を極めた。普段から友人と旅行に頻繁に行くことに慣れている者からすれば、しっかり事前に予定を立てて旅に臨むことなど朝飯前なのだろう。しかし、友人が少ない僕は、慣れてないやら恥ずかしいならでは、どうしても段取りが悪い。

 極め付けに、今回の旅のツレである友人がなかなか浮世離れしている奴で、連絡が中々スムーズに取れない。

 以上のめんどくささに負けてしまい、午前中一杯ベッドの上で松尾スズキ星野源のエッセイを読みながら「こいつら、人の心にするりと入り込むのが上手いな、チクショウ、チクショウ」と笑いながら怒っていた。

 しかし、怠けていてはダメだ、とりあえず行動を起こさねばと思い立った。メロスと化した僕は、とりあえずシャワーを浴び、山積みになっている洗濯物を片付けることにした。スーツは自分で洗うのが難しかったので、近所のクリーニング屋に向かった。

クリーニング屋の受付には、30代ぐらいの女性店員がいた。ジャケットを受け取り、丁寧に折り畳んでくれていたのだが、おもむろにその店員がジャケットの胸ポケットから何かを取り出した。それは紛うことなき、タンポンであった。

 先日のライブイベントで、私達の前の出番のバンドがパフォーマンスの一環としてステージ上でタンポンをばら撒いていた。私は自分たちの出番の時に、ステージの上に悲しそうに残されたタンポンを何故か胸ポケットにしまったのだが、すっかりと忘れてしまっていた。

 

 タンポンを手に取る店員を目の前にして、非常に焦る私。焦りすぎて思考が停止し、気付いた時には「すいません、それ僕のです」と口走ってしまっていた。

 20歳前後の男が、クリーニング屋にてジャケットの胸ポケットに大切そうに入れていたタンポンを声高らかに自分の所有物であると宣言したのである。その後、店員さんが気を使ってか、苦笑交じりに「こちらで捨てておきましょうか」と尋ねられるも丁重にお断りして店を後にした。穴があったら入りたい。本日発売のJUMPに目もくれず、急いで自宅へ逃げ帰ったのだった。