ゾンビをめぐる冒険

 散々暴飲暴食して、百鬼夜行、魑魅魍魎の成れの果て、最後はロメロのゾンビになって、友人の家で眠りについた明くる日のこと。

 11時の目覚ましで起きたゾンビは、昨日しこたま飲んだせいで、頭が割れそうなくらい痛かった。ただ起きた時の頭痛によるショックのおかげで、当日に別の友人とランチに行く予定があったことを思い出した。ゾンビはああうあというお決まりのうめき声をあげ、二日酔いで儘ならぬ身体、いやBODYを無理やり起こした。そして両手を前に突き出すと、家に泊めてもらった友人への感謝もおざなりに、家を後にした。

 グラグラする頭を抱えて電車に乗りこみ、乗り換え検索をしていると、ゾンビは大きな失敗をしていることに気づく。友人の家に泊まった際に、ゾンビは友人に充電器を借りて、充電しなかったのである。その時点でゾンビのスマートフォンの充電は、残り10%を切っていた。悲しいことに、ゾンビは30歳手前に差し掛かったにもかかわらず、計画性という概念を持ち合わせていなかった。そしてゾンビは一般的なゾンビがそうであるように、充電器を携帯していなかった。ハイホーである。

 事態のまずさを悟ったのか、この辺りからゾンビの頭は少しづつ正常に動き始めるようになった。そして数分経つころには、ゾンビは世界で1番まともなゾンビになりつつあった。一方で、人間からはまだまだ程遠い存在であった。なぜなら人間にしては目が虚だったし、なにより3駅ごとに電車から降りて、トイレでゲロを吐いていたからだ。ゲロゲロー。

 悪態をつきながら、胃液に塗れた口内を濯いでいると、ゾンビはとあることを思い出す。フワちゃんが公式キャラクターを務める充電器貸し出しサービスの存在である。二日酔いでネガティブ気味のゾンビだったが故に、正反対の存在であるフワちゃんを思考の過程で結びつけたに違いない。ゾンビは急いで充電器貸し出しサービスを検索した。残りの充電が5%、猶予はない。どうやら専用アプリケーションをインストールしないと借りる事ができないらしく、インストールを開始する。

 ここでゾンビは新たな問題に気づく。回線の速度制限である。ゾンビは愛すべき計画性のなさがゆえに、外出時に携帯回線で映画を見るし、ロスレスで音楽を聴いちゃうため、月末には回線が速度制限になってしまうのだ。持ち主がゾンビならば、携帯もゾンビである。

 のろのろとインストールが進行する中、充電は3%をきる。万事急須かと思えたが、なんとかインストールを終える。急いでアプリケーションを起動すると、ちょうど駅前のコンビニで、充電器を貸し出していることがわかった。

 2004年公開の『DAWN OF THE DEAD』のゾンビくらいの速さで改札を通り抜け、ゾンビはコンビニにたどり着く。その時点で充電は残り1%となる。ゾンビはかり立てられるように、コンビニ中を徘徊する。そして充電器の貸し出しボックスを見つけると、ボックスに印字されたQRコードを読み込み、貸し出し申請を進める。

 ここで映画的なクライマックスを迎える。充電器を借りるためには、専用アプリケーションで支払い設定を済ませている必要があることに気付かされたのだ。ゾンビは負けそうになる心を必死に押さえつけ、震える手でクレジットカードを財布から取り出し、クレジットカードの番号を打ち込む。ゾンビのくせに、キリストにすら祈りを捧げ、画面をフリックする。が、一瞬のフリーズののち、ゾンビの携帯はブラックアウトする。ゾンビは、その持ち前の計画性のなさがゆえにサービスを利用することもできない。ゾンビはやけ起こして泣きたくなったが、目玉を既にどこかに落としてしまい、泣けないことに気づく。しかたなく惣菜のチキンを買って、かぶりつく。ガブガブ。 

 ゾンビはこの時コンビニの前に佇んでいたのを目撃されたが最後、行方がわからなくなったという。

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