原文ママ

 書籍や記事を読んでいると、(原文ママ)という表記を目にすることがある。特にインターネットの記事で著名人のインタビューの内容がそのまま引用されている場合が多い。

ママは、編集用語において「原文の儘 (まま) 引用」を略記する際に用いる記号。わかりやすく「原文ママ」の表記も見られる。趣旨としては、引用者が誤字またはそれに類すると感じたが、敢えて原文のママに引用する、というコメント。

ママ (引用) - Wikipedia

 高校生の頃、仲間内でとある若手バンドに関する記事が話題になった。その記事の内容は若手のバンドが、当時激しいサウンドで一部の人気を獲得していた別のバンドの演奏を批判したという内容だった。どちらのバンドもファンがいたので、喧々諤々議論が進む中、僕はぽろっと感想をこぼした。

「この原文ママってライター、色々な記事で見るんだけど、凄い活躍しているよね」

「え?」

 大方の予想通り、当時の僕は確かな取材力と卓越した文章力で日本のメディア界を折檻する、原文ママなるライターがこの世にいると思っていたのだ。彼女はライターとして活動する過程で、その類まれなる業績の数々から「新宿の母」のように厳かな通り名がつき、いつの間にかペンネームとして認知されるようになった。これが私の想像していた「原文ママ」の経歴である。

 この原文ママ事件は僕にとってちょっとした古傷で、シャワーを浴びている時にふと思い出して悶えてしまう。当時もひとしきり笑われた後、原文ママの正体を教えてもらった時、顔から火が噴き出た。

 言葉の意味をちゃんと理解していなかったり、知ったかぶりをして、恥をかいたことも少なくないが、原文ママ事件は印象深い。貴方にとってこんな古傷はありませんか。ふとした時に、原文ママが鎌を持って古傷を抉りにやってきませんか。