ドラゴンを育てる。

 浪人生時代、予備校にユニークな物理講師がいた。彼は講義の合間に様々な雑談をして僕達を楽しませてくれたが、時折真面目な顔になり、

  「受験勉強はとても大事なのだけど、傍で自分のドラゴンを育てる事にも取り組んでくれ。大学生や社会人になった時に活きてくるから。」

と熱く語ることがあった。

 何故だか彼がこの話をする時はきまって、自身の下腹部の手前で、“架空のドラゴン”を撫で回すような仕草をしていた。このシモを連想してしまう仕草は僕の仲間内ではお笑い種で、「俺のドラゴンを育てるぜぇ〜」(卑猥なジェスチャーをしながら)とドイヒーなモノマネをしていた記憶がある。当時の僕達、少なくとも僕はひどく幼稚だった。幼稚が故に、その講師の意図することを理解できていなかった。

  それから五年経ち、僕の中の世界は大分広がったが、一方で一部の世界は閉ざされてしまった。その過程で、僕も多少成長したのだろう。講師の言葉の意味が、なんとなくではあるが、理解できるようになってきた。自分のドラゴンを殺さずに育てる事ができていれば、背に乗ってどこへでも行けるし、どうしても許せない奴らに、火炎放射をお見舞いする事もできる。(非常に残念ながら、シモの方のドラゴンを育てる事も、とある世界では重要になる事があった。)だからだろうか、時折ドラゴンを育て続けている大人と会う事があるが、何故だか僕にとって魅力的な人が多い。

  僕もドラゴンをちゃんと育てる続ける事ができているだろうか。最近、就職活動にいじめられて不貞腐れ始めている気がするが、大丈夫だろうか。ひとまず映画を見て、研究室で実験をして、デートをして、ドラゴンに栄養をあげないと。話はそれからだ。

 

 

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