君の名前で僕を呼んで

 

『Call Me By Your Name』(邦題:『君の名前で僕を読んで』)

f:id:thenumber19:20180510161355j:plain

 

Frank Oceanの『Self Control』 の歌詞を初めて読んだ時とおんなじ衝撃があった。

 

Self Control

Self Control

  • Frank Ocean
  • Pop
  • USD 1.29
  • provided courtesy of iTunes

 

この曲は夏のプールサイドの描写があり、「I'll be the boyfriend...」という歌いだしで始まる。

Frank Oceanが綴った歌詞から想起される、夏の夜にあてもない思いを綴ったノートを燃やすような感覚はこの映画にも共通しているのではないかと思う。

 (奇しくもこの映画でもよく水辺で体を横たえるシーンがよく登場する。)

 

 

 『Call Me By Your Name』は、夏のイタリアで主人公エリオと年上の大学院生のオリヴァーのラブストーリーが描かれている。

 

太陽が燦々と輝く中、華奢で美しい青年がラコステのポロシャツを身にまとい、川辺で遊んだり、果実をほお張ったり、時に感情を爆発させたりする。

とても魅力的で映画を見ている間、目が離せない。

(以前のBlogでも書いたが僕は、登場人物が食べ物をおいしそうにほお張る描写がどうやら好きみたいだ。)

thenumber19.hatenadiary.com

 

またエリオやオリヴァーを始め、エリオの両親など、中心的な登場人物は皆、教養があり、ユーモアがあふれる人々で、彼らの会話はとても高度で面白いのだが、この何気ないやりとりが後のストーリーに繋がっていることが多々あり、ストーリー展開も非常に上手かった。

 

これだけでも充分楽しめた映画なのだが、中でも僕が面白いなと感じたのは、主人公の家族やオリヴァーが労働にほとんど従事していないところだ。

 

エリオの父親が大学教授という職業柄、文学の研究に励んでいる姿は要所要所で描かれているのだが、それを除けば彼らはいっさい働いていない。

炊事、洗濯、掃除、そして自転車の修理にいたるまですべてを使用人が行っていて、その代わりに彼らは音楽を奏で、ハイデガーを読み、深い教養をもって討論し、酒を飲み、ディスコで踊る。

(全然関係ないけど、オリヴァーのダンスがあまりにオッさん風のダンスだったので少し笑ってしまった。)

 

僕は村上春樹のデビュー作である『風の歌を聴け』という作品に次の一節があるのを思い出した。

もしあなたが芸術や文学を求めているのならギリシャ人の書いたものを読めばいい。真の芸術が生み出されるためには奴隷制度が必要不可欠だからだ。古代ギリシャ人がそうであったように、奴隷が畑を耕し、食事を作り、舟を漕ぎ、そしてその間に市民は地中海の太陽の下で詩作に耽り、数学に取り組む。芸術とはそういったものだ。

 

彼らはまさに当時のギリシャ人そのもので、彼らの生活は芸術そのものだ。

職場の上司にハラスメントをされたりだとか、週末に便器の掃除をするといった、ふだん僕らがうんざりするほど味わっている生活の“みじめな所”が殆ど描かれてないのだ。

だからこの映画が作品全体でとても不思議な、“芸術的”な雰囲気がするのだと思う。

 

だけどだからといって共感できないことは決してない。

この映画で描かれている性欲や食欲や自然に囲まれて暮らす喜びは僕らがふだん嫌というほど向きあっているものなので、

映画全体としてはキラキラして美しいものなのだけど、どうしても身近なものとして感じてしまう。なんだかギリギリの綱渡りをする曲芸師みたいな映画だ。

 

 

またこの映画では、二人の愛や性欲が、食欲を象徴する果実や、川辺などの自然によく結びつけられていたので、

誰かを肉体的にも精神的にも必要とする事が、物を食べたいと思う事や夏の暑い日に川に飛び込んだりする気持ち良さとなんら変わりなくて、誰にとっても当たり前の感覚なんだというテーマをじんわりと受け取ることができた。

 

 終盤に出てくるエリオと父親との長いやり取りのシーンやエンディングのシーンもそうだが、この映画には夏の夜にこっそりノートに綴りたくなるようなあてもない思いを、痛みを伴いながら、どこかで肯定してくれるシーンやセリフが沢山ある。

エンディングを迎えた時涙を流していた。

 

 

 

この映画とは直接関係はないのでけれど、映画を見終わった時に友人のあるツイートを思い出した。 少し迷ったけど載せる。

 

 いろんな人の感想が聞いてみたいなあ。